過去の研究データーを参照していくと、変な動きを確認した。本来の内容を隠すためのダミーが崩《くず》されている事に気づいた。
姫柊《ひめらぎ》は内容を把握《はあく》している。だからこんなコソコソと調べたりしないはず。そうなると関係者ではないのが分かる。彼とは同じ研究室を分けて使用していた。 もしかしたら姫柊《ひめらぎ》に関係する人物の仕業《しわざ》かもしれないーー 「どうした?」 銘刀《めいとう》の様子に異変を感じた風間は何が起きているのかを理解出来ていない。どう説明すれば部外者の彼に分かりやすく伝える事が出来るだろう。 変に作った言葉は必要ない。ただ単純で明確《めいかく》に事実を伝えるのがベストだろう。 銘刀は真剣な表情を見せながら、振り向いた。 「どうやら俺達の邪魔をしようとしている人物がいるみたいだ」 「邪魔?」 「ああ……風間には詳しい内容は言っていなかったな。姫柊《ひめらぎ》から急に電話が掛かってきたんだ、どうやら何らかしらのトラブルに巻き込まれているようだ」 詳《くわ》しい内容までは把握《はあく》出来ていない。あの時の姫柊の様子は異常だ。話し方からして何かがあったのは明白《めいはく》だった。 銘刀は一呼吸置くと、続きの言葉を口にしていく。 「姫柊と俺は同じ研究室を使用している。何度か彼からの要望《ようぼう》で開示《かいじ》されている研究データーを共有《きょうゆう》した事があった。把握している内容を隠れて調べる必要はないだろう。研究者がデーターを閲覧《えつらん》すると、ログが残るようになっているんだ」 「聞き忘れていただけじゃないのか?」 「いや、それはない」 銘刀《めいとう》はそう言い切ると、それ以上風間が突っ込んでこないように圧力《あつりょく》を与えていく。人に対して突き放す行動は、彼にとっては焦《あせ》りの形。それを察知《さっち》した風間は空気を読んでいくと、無言の世界の中で状況を整理整頓《せいりせいとん》しようとしていった。 片方が詰《つ》まると、もう片方が求めている情報を与え、協力関係としての立ち位置を作り替《か》えていく。きっと銘刀と姫柊もその関係性に近かったのだろう。 風間は姫柊との面識《めんしき》は全くない。ミナミが生きていた時に銘刀とは友好関係を結んでいた。当時の彼との会話を思い出しながら、姫柊《ひめらぎ》と言う人物に触《ふ》れようとする。 直接話を聞きたいが、今は難しいだろう。銘刀の話を整《ととの》えていくと、二人が所属している研究施設。隠したくても隠せない関係だ。銘刀の性格を考えると、彼に情報提供《じょうほうていきょう》をしたのも事実だろう。 言っている事が現実味《げんじつみ》を帯《お》びていないからか、周囲の人達から信用されない事が多かった。その姿を想像すると一つの考えにたどり着《つ》く。 「その姫柊って人が自作自演《じさくじえん》したんじゃないか? その可能性は捨てきれないだろう」 風間は自分の意見を銘刀に投げ捨てる。それを拾うも拒絶するのも彼次第と言った所か。 一刻《いっこく》の猶予《ゆうよ》も無駄には出来ない。安易的《あんいてき》な考えに揺られながらも、吐いた言葉は取り消せない。 「自作自演なんて器用《きよう》な真似、彼には出来ないだろうな」 「何故、そこまで言い切るんだ?」 「十年も研究者として協力関係にあったんだぞ。そんな彼が自作自演をしていたら、俺が気づくはずだ」 自分の知らない所で別の顔があったのかもしれない、一瞬そんな考えに支配されそうになった銘刀《めいとう》は、自分自身に向けても言い聞かすように言葉を吐いた。 彼の知る限り、姫柊《ひめらぎ》にそんな芸当《げいとう》は出来ないだろう。それこそ、裏で潜《ひそ》んでいる影でもいない限り不可能に近い。 ミナミ以外の人間に対して語る姿を見るのは初めての事。普段の銘刀を知っているからこそ、まるで別人と話しているような錯覚《さっかく》に陥《おちい》りそうになる。風間は彼の全てを知った気になっていただけで、何も見えていない事実に打ちのめされる。 心の中での呟きを飲み込むと、何事もないかのような態度を演じた。風間はここまで彼の事を考えている自分を認めたくないのと、裏側に隠れている感情に気づかれたくなかった。 ミナミと付き合うようになった時から、二人は家族以上の付き合いになっている。極端《きょくたん》だが風間は親のような目線を持っているのだ。ミナミが関わるとこうなるのが通常。だからこそ、妹を守る事が出来なかった銘刀《めいとう》に怒りを抱くしか出来ない。 「姫柊には無理だとしても、彼を動かしていた人物がいれば話は別か……」 微《かす》かな呟きが風間《かざま》の心を攫《さら》っていく。昔の景色に染まっていた風間は、ハッと我に返った。そんな彼の変化に気づく様子もない。一度集中すると周りが見えなくなる。そんな銘刀《めいとう》の姿を知っているからこそ、こうやって合間に昔の記憶に飛ぶ事が出来るのだろう。 銘刀の呟きは自分に向けられているものなのかを判断してみるが、パソコンに釘付《くぎず》けだ。自分の考えを思考を纏《まと》めるように、ブツブツと独り言を口にしている。風間から見たら、まるで透明人間と話しているように思えて、ぶるると寒気が走っていく。 「細かい事を考えても、無駄じゃないのか?」 「無駄なものなんてないさ。手がかりはこの干渉されたログにある。少し調べるから時間をくれないか?」 自分の世界に没頭しようとしている銘刀を止める事なく、はいはいと受け入れた。こうなったら納得するまで調べないと気がすまないのを知っているからーー □□ 悠長《ゆうちょう》に調べている時間なんてない。その事を理解しているはずなのに、画面から離れる様子はない。この間でも姫柊は自分達がなんとかしてくれるのを待っているはずだ。何を考えているのか分からない風間は、最悪な気分を誤魔化《ごまか》すように、腕《うで》を組み直した。 カチカチとマウスのクリック音が静寂の中で存在感を表している。ログの内容を確認する為に、管理者権限を使用しながら、細かなデーターの破損まで調べ尽くそうとしていた。彼の瞳に映る映像は電脳により、小さく刻まれていく。数字化していくと、その中で一番の不審な点にたどり着く事が出来る。 画面と瞳がリンクすると、隠されていた敵の姿を垣間《かいま》見る。 「しつこい奴ね。管理者権限を併用《へいよう》して独自《どくじ》の解析データーで私の動きのパターンを見ようとしているなんて……どんだけ変態なのよ」 邪魔が入るまでは自分の足跡を消す為の作業が簡単に感じていた。ミーシャは姫柊《ひめらぎ》が隠しコマンドを使って、彼女の動きと正体を管理者へとリークする、そういうものを仕込んでいた。簡単に言えばウィルスのようなもの。彼女に奪われる可能性を考え、自分のアクセス権利に仕込んでいたようだった。その事に気づいたのは、管理者権限を持つ不透明な人物による動きで、気づく事が出来た。 「あれだけ私にベッタリだったのに、喰《く》えない男ね……こんな事で引き下がるミーシャ様ではないけど」 自分の形跡《けいせき》を消しながら、銘刀《めいとう》の攻撃に備《そな》えていく。さすがに管理者権限を持っているのだから、サイバー攻撃をしてくるとは思えない。それでもミーシャの行動の予測を完璧にしているからこそ、最悪の状況を作り出す、そう思えて仕方なかった。 眼の前の遊びに沼《ぬま》りそうになっているミーシャは姫柊の死体が置かれている部屋の監視カメラが映像を止めた事に気づく事はない。彼女にとっては冷静さを忘れてしまう程、画面の向こうで阻止《そし》してくる人物に興味津々と言ったところだろう。 【この部屋のカメラは遮断《しゃだん》したが、音までは難しかったーー気づかれないように頼む】 菜園《さいえん》は銘刀《めいとう》から送られてきたメッセージを確認すると、すぐさまスマホの電源を切り、研究室へ忍《しの》び込んでいく。ここまで来るのに、思いの他、時間がかかってしまった。こんな自分を彼が見ていたら「仕事が遅い」とドヤされるだろう。 研究室のドアは通常閉めらているはずなのに、誰かが爆弾でも使ったような形跡《けいせき》が残っていた。どうやったらこんな悲惨《ひさん》な現状になるのだろう。呆気《あっけ》に囚《とら》われそうになるが、誰かがこの部屋を監視している以上は、気を拔く事は許されない。 元々は小綺麗にされていた研究室だった事が伺《うかが》える。書類の山は部屋中に散らばり、機械は破壊され、パソコンは無惨《むざん》にもバラバラになっている。ドアの破損具合を見て、爆弾でも投下《とうか》したのだろうかと思っていたが、これはどちらかと言うと何かに襲《おそ》われた跡のように見える。 一体、ここで何があったのだろう。ヒントに繋がるものを探しながら、姫柊《ひめらぎ》の捜索《そうさく》を開始した菜園《さいえん》だった。過去の研究データーを参照していくと、変な動きを確認した。本来の内容を隠すためのダミーが崩《くず》されている事に気づいた。 姫柊《ひめらぎ》は内容を把握《はあく》している。だからこんなコソコソと調べたりしないはず。そうなると関係者ではないのが分かる。彼とは同じ研究室を分けて使用していた。 もしかしたら姫柊《ひめらぎ》に関係する人物の仕業《しわざ》かもしれないーー 「どうした?」 銘刀《めいとう》の様子に異変を感じた風間は何が起きているのかを理解出来ていない。どう説明すれば部外者の彼に分かりやすく伝える事が出来るだろう。 変に作った言葉は必要ない。ただ単純で明確《めいかく》に事実を伝えるのがベストだろう。 銘刀は真剣な表情を見せながら、振り向いた。 「どうやら俺達の邪魔をしようとしている人物がいるみたいだ」 「邪魔?」 「ああ……風間には詳しい内容は言っていなかったな。姫柊《ひめらぎ》から急に電話が掛かってきたんだ、どうやら何らかしらのトラブルに巻き込まれているようだ」 詳《くわ》しい内容までは把握《はあく》出来ていない。あの時の姫柊の様子は異常だ。話し方からして何かがあったのは明白《めいはく》だった。 銘刀は一呼吸置くと、続きの言葉を口にしていく。 「姫柊と俺は同じ研究室を使用している。何度か彼からの要望《ようぼう》で開示《かいじ》されている研究データーを共有《きょうゆう》した事があった。把握している内容を隠れて調べる必要はないだろう。研究者がデーターを閲覧《えつらん》すると、ログが残るようになっているんだ」 「聞き忘れていただけじゃないのか?」 「いや、それはない」 銘刀《めいとう》はそう言い切ると、それ以上
ミーシャが仕込んだもう一つの悪魔に気づく事が出来ない姫柊《ひめらぎ》は微量《びりょう》な音波により、思考がぐちゃぐちゃと混ざりあっていく。 今の状況を把握《はあく》していたはずなのに、全てが崩れていく。歪《ゆが》んでいく思考を止める方法も分からない。当たり前の感覚を手にしていたはずなのに、人間らしさを手放していった。 「があああ」 両手で頭を抱え込み、呻《うめ》きをあげる姿は人間とは呼べない。メアリーは大きく口を開くと聞いた事のない言葉を口にしていく。何て言っているのか聞き取る事が出来ない。それもそうだろう、彼女の呟きは超音波によって作られた新しい言語なのだからーー ガタガタと全身の骨が砕《くだ》け始める。姫柊《ひめらぎ》は痛みを感じる様子もない。両足が反対方向に折れ曲がっている。自分で屈折《くっせつ》させているように見えた。 口からは涎《よだれ》を垂《た》れ流し、瞳からは大量の血が涙のように溢《あふ》れている。ここまで人の精神と肉体に作用《さよう》を起こす事が明らかになる。その光景をモニター越しで確認する事が出来たミーシャは悦楽《えつらく》の表情を綻《ほころ》ばせ、全身に流れる快楽に身を任せた。 「凄い! こんな効力《こうりょく》があるなんて。なんて……素晴らしいの。想像以上の結果だわ」 はぁはぁと呼吸を乱しながら、興奮が頂点に達する。思う存分楽しむ事が出来た彼女は、嬉しそうに舌なめずりをした。 人間の言葉さえも、自分が人だった事も忘れてしまった姫柊《ひめらぎ》は、モンスターにしか見えない。両足の次は両手が明後日の方向に折れ曲がり始める。獣のように吠え続ける彼を絞《し》める為に、首がぐりんと後ろに折れ曲がった。 元々宗教を広める為に昔作られた脳内チップを参考にしただけ。それが別の方向でも役に立つ事が分かった。それだけで彼女にとっては大きな収穫《しゅうかく》。 「あっ
風間《かざま》の声が聞こえた気がした。銘刀《めいとう》は昔の事を思い出しながら、到着するのを待っている。一息つける時間を堪能《たんのう》し終わった。癒しの時間はあっと言う間に過ぎていく。「銘《めい》ちゃん、ずっと一緒だよ」ミナミの声が鮮明《せんめああ》に聞こえてくる。自分が研究者としての道を歩み始めた時に、彼女は彼を支えてくれた。銘刀《めいとう》にとって彼女は誰よりも特別だ。ミナミの代わりは要らない、例え他の人物が名乗りを上げたとしても、彼の心には響かないだろう。「ミナミ、俺は……」言葉に出来ない気持ちを飲み込むと、グッと涙腺《るいせん》が緩《ゆる》んでいく。目の前に現れた最悪なシナリオが待ち受けているのに、今の銘刀《めいとう》には届かない。分かっている。彼女はもういない。電脳を植え付ける為の機器《きき》テストを受けた彼女は、その重圧に耐えきれず、副作用を発症してしまった。一度現れた症状を改善出来る見込みはない。それは今でも同じーー彼女と共に永遠に生きれる命を作る事が出来る。そう信じていたのに、現実は彼の願いを打ち砕《くだ》いた。「どうして俺が成功して、彼女が」こんな銘刀《めいとう》の姿を見る人はいないだろう。なにもない日々の中で過去の鎖《くさり》に囚《とら》われている彼を救える存在などいない。風間とはそれ以来会う事はなかった。あの事故が原因で妹を失ってしまった風間は銘刀を恨んでいる。昔のように親友に戻る事はないだろう。ミナミの犠牲を経験し、彼は全ての電脳に携わる研究を破壊する為に刑事になった。こうやって移動手段を与えてくれる。今はそれだけで充分だった。ブロロロロとエンジンを吹かす音が聞こえてくる。銘刀は自分の存在を彼に見せる為に右手を上げた。徐々に減速していくと、銘刀の前に止まる。窓を開
状況を把握《はあく》出来ないと動こうとも動きようがない。話だけでは明確《めいかく》な情報を手に入れる事は不可能だ。姫柊《ひめらぎ》は思った以上に精神的に追い詰められている。覚悟はしていたようだが、いざ現実を見てしまうと耐えられない様子。 銘刀《めいとう》は彼が引き金を引いた事を知ると、自分の研究支援者に連絡をしていく。資金繰りに関しては力を貸してくれても、この状況を打破《だは》する考えを提示《ていじ》してくれるかは、分からない。 まだこの街には影響が及《およ》んでいない、だが時間が過ぎれば過ぎてゆく程、深刻《しんこく》な自体に変貌していくだろう。 安全だった場所が危険地帯に代わり、電脳システムとリンクさせてしまったチップが原因で体を乗っ取られてしまった被験者《ひけんしゃ》が動き出すのも時間の問題だった。 防《ふせ》げるのなら、どんな手段でも使おう。そう心の中で決意表明《けついひょうめい》をしながら、今の自分に出来る最低限の行動を歩み初めていく。 研究施設に戻れない以上、別の機関《きかん》で対策を立てる必要がある。正直、姫柊《ひめらぎ》が研究に不可欠な機材を守っていたとしても、今更向かっても、手遅れになるだけだ。 「忙しいお時間にすみません。急遽《きゅうきょ》お願いしたい事があるのですがーー」 今は彼女だけが頼りだ。今分かっている状況と情報を簡易的《かんいてき》に伝えると、菜園《さいえん》は「後は任せて」と言い切った。それが何を意味するのか知りたくない銘刀《めいとう》は、無言で電話を切るしか出来ない。「あの機材さえあれば、止めれるかもしれない。しかし……」 模造品《もぞうひん》として埋め込んでしまったチップがどれくらいの効力《こうりょく》を発揮《はっき》するのかが不安だった。 世界を救うなんて大それた事は出来ない。それでも何かしら食い止める事は出来るはずだ。 その為に今までの研究資料が必要になる。ある程度は頭の中に入っているが、完璧《かんぺき》ではない。 銘刀《めいとう》はもう一箇所に連絡を入れる。異常がある時にメッセージを送るようにルールを決めていた。それを今使う事になるとはーー 「……これでいいだろう」 自分の現在地を付点《ふてん》すると、カバンにしまい込み、代わりにタバコを取り出す。近くにある喫煙所まで歩いて一分程度。迎《むか》え
周囲は炎に包まれ、その中心で一人の少女が佇《たたず》んでいる。仲間だった彼女の名前はメアリー。 彼女は僕達の作り上げた一つのウィルスーカムニバルによって自我を失っている。カムニバルは人に使う事は出来ない、通常ならば。 ウィスルは全ての機械を支配する効力を持つ、一つの電脳によって、暴走をしてしまった機械達を元に戻す為に作られたものだった。 そのウィルスを人に与えてしまうとどうなるのか、その疑問を解消する為に、周囲を騙してメアリーに嘘を伝えた。 「この薬は君と君の旦那さんを救う特効薬になる。望めばこの世界から自由になれるんだ」 「……doctor姫柊《ひめらぎ》。その話は本当なの?」 「ああ。これは私の研究が結んだ大きな奇跡だ。事実を知っているのは僕と君だけ。皆にはまだ言っていない」 電脳を持つ人間になら体制があるのは研究成果が出ている。しかし純粋な人の肉体のみで作られた体に、どんな作用があるかは未知数だ。今回の実験が一つの可能性を作る、そう感じていた。 「……分かったわ。姫柊の事を信じる。被験者になるわ」 「よく決断したね。絶対に君達を僕が救うから」 彼女の信頼を得る事が出来るのは、今までこの世界を共に歩んできたからだろう。医者と患者と言う立場ではあるが、今となっては関係ない。 僕は彼女の決意が揺らぐ前に注射針にウィルスを注入していく。自分には影響がいかないように防護服を着ていた。簡単に防げるとは思っていない、それでも一つの物質が混ざり合う事で別のものに変貌する。このウィルスの特徴を把握しているから、何の迷いもない。 「ふっ……く」 「大丈夫だ、時期慣れてくる」 速攻性が高いウィルスに改変した事で、メアリーにも何らかの影響を与えているようだ。時間が経つに連れ、顔が青ざめていくのが分かる。 「どうだい?」 僕は彼女に問いかけると、反応するようにプルプルと震え出す。その動きは痙攣のようで、違った。彼女の瞳からは大量のち塩が流れ出ると、グタリと項垂れてしまった。 電脳を縛《しば》る為、支配する為のものを人体で使うのは無理だったのだろうか。落胆してしまう僕がいる。人体で実験を試みたのは今回が初めてだった。彼女以外に被検体として拉致している人物はいるが、彼の場合深刻な心臓病を持っている。 正直、難しいだろうーー 表